「読者に生かされてる」覚悟
WEBライター、ヨッピーさんの本。
- 作者: ヨッピー
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2017/09/21
- メディア: 単行本
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ライターとして独立するまでの過程と、いま大事にしていることを、とてもシンプルに提示する。
「うーん、そうなんだけど、なかなかなー」みたいに思わず言い訳したくなっちゃう指摘が多かった。
生産する趣味 消費する趣味
趣味をお金に変えるきっかけをつかむための、ヨッピーさんの分類。「その趣味を通じて、お金を稼げる可能性、新しい知り合いが増えるもの」が「生産する趣味」。そうした可能性がないものが「消費する(だけの)趣味」。
単純に風俗通いをするだけなら「消費する趣味」だが、それを例えばレポートや漫画、動画にして、ツイッターやブログにアップすれば「生産する趣味」になるという。
(すると)同好の士が集まったり、いくばくかのお金になるかもしれない。
大事なのは、消費して満足して終わり、ではなく、何かしらのアウトプットを世に対して続けること。
「仕事になり得る趣味」をみんな持ったほうがいい。
「嫌々やっているプロ」と「好きでしょうがないプロ」が勝負したら素人が勝つことのほうが断然多い。
言われると、まあ同じような話を聞いたことがないわけではないと思うし、ごく普通のアドバイスのようにも思えるが、でも改めて、大事な話だと感じた。
紙媒体で書かないわけ
ヨッピーさんに指摘されて、なるほどと感じたのが、いまやWEB専業ライターのほうがいろいろな面でいいかも、という比較。「スピード」「表現力」「コスト」「ファンの作りやすさ」、どれもWEBが上。確かに今後もWEBという感じがする。
この数年でますます変わっている点だと感じた。
「戦術」の前に「戦略」を考えよ
これはサラリーマン社会も同じだなと感じた点。
レストランに例えると「おいしい料理と、丁寧な接客をしよう」が戦術。「そもそも、どういうコンセプトのお店にするかを考える」が戦略。
ライターで言えば「取材した記事を面白く、丁寧に書く」が戦術。「そもそも何を取材すると面白いのか」を考えるのが戦略。
要するに「戦術」のひとつ上のレイヤーが「戦略」。この「戦略」についてまでちゃんと考えて行動している人はかなり少ない。
少し考えると明白に「儲かるか、儲からないか」はわかるはずなのに、そもそもそこに考えが至ってすらいない人が多い。「戦術」ではみんな争うのに、「戦略」では意外とライバルが少ない。
指摘されれば、まったくその通りだ。なのに、なんとなく、「大前提はまったく疑わず、でも、与えられた場では頑張る」のが、正統派というか、美徳というか、どこがで思考停止している分、楽でもあったりする。確かに「戦術に全力投球」になりがちだ。
戦略を問うことは、これまでやってきたことの否定でもある場合もあって、ますます難しい。
ヨッピーさんは、戦略として、「椅子取りゲーム」の感覚で、「広告に強いライター」「観光に強いライター」「自治体に強いライター」の椅子を占めたそうだ。
まだまだ「儲かる椅子」がガラッガラッに空いていることに、まだ多くの人たちは気づいてなかったりする。
とのこと。戦略という発想を持てない人との差は大きいもんなあ。
また「プラスワン戦略」も提唱する。
例えば商品の紹介をしてほしいという依頼を受けた場合、「普通に紹介するだけの記事」は書かないようにしている。
DJに「泡」や「マグロ」、スーパー銭湯に「カフェ」。別の要素を足すことで他と差別化し、ガチンコの殴り合いを避けられる。
「自腹を切ってでも」って言うくらい、「ひとつ乗せる」ことに気合を入れて取り組んでほしい。
一番大事なのは「読者」
当たり前のようで、これも会社勤めだと原則がブレまくりになりがちだと思ったのがこの点。
会社員であれば大抵のことは会社から指示が下りてきて「これをやれ」と言われる。自分ひとりで仕事をするとなったら「何をするか」を考えることから始める必要がある。そのとき絶対に忘れてほしくないのが「何が自分にとって一番大事なのか」だ。
ライターの仕事には、「クライアント(お金をくれる人)」がいて、「取材先」がいて、「読者」がいる。どれが一番大事なのかと言えば、これはもう「読者」。
なぜ僕にクライアントがお金をくれるのかと言えば、僕が一定数の読者を抱えているから。
だから僕は自分の読者に絶対損をさせたくない。読者から直接お金をもらうようなこともしたくない。
僕は読者のおかげで生活ができている。楽しい人生を過ごしている。「自分は誰によって生かされているのか」。ここのところをよく理解しておかなければいけない。
心構えとして言っているのではなく、
ギャラは高くても読者の信用を失いかねない怪しい依頼は断る
広告記事は予算が高いので「儲かる分だけ、予算を使って、記事のクオリティを上げる」。一番大事な読者は「ふだんより面白い記事が読める」メリットがあり、広告主は数字が稼げる、ライターも派手なことができる。三方良しの原則から外れないかぎりは読者だってちゃんと読んでくれる。
広告記事の「ネガティブ表現NG」「ライバル企業の名前出しはNG」などの「業界の慣習」も無視する。トラブルになって自腹で記事執筆になっても、読者を裏切らない。
「怒る」のは大変面倒だが、「他人の怒りを代弁するときだけ」は怒る。僕自身の個人的な怒りは読者にとってどうでもいいが、「他人の怒りを代弁して怒る」という行為が支持されて、新しい読者がごそっと増えたりするそうだ。
などの、筋の通し方をしている。
潔さ・誠実さ・堅実さが嬉しい
金の匂いがするところと距離を置こうとしていること、そうしないと「価値観ズレそう」と正直に書く感じもいいなーと思った。
六本木や麻布の起業家が集まる所に行くと「ウチのサービスを紹介してほしい」なんて言われることも多い。びっくりする好条件を提示してくれたりする。僕の読者がそういう記事を求めているかというと、それはまた別の話。それなのに、その好条件に自分の心が揺れ動くのが嫌。
六本木のお金を持っている人たちと一緒に過ごせば、大なり小なりそういう価値観が僕にしみついてしまう。普通の読者はそういう六本木の経営者層と違う価値観で生きている。
一食8000円でコスパのいいフルコースの記事を書くくらいなら、2000円で美味しい肉が食べられる食べ放題の焼き肉店の記事を書いた方が絶対に読者に喜ばれる。市場のニーズに誠実でなければならない。
(六本木の会員制バーのような)しゃらくさい場所の飲み会には、しゃらくさい連中が集まると相場は決まっている。女性にも「女性」を売り物にしているような、愛人稼業みたいな連中も多い。「人間の汚いところ」みたいなのがバッシバシに見えて本当にげんなりしてしまう。
六本木のこじゃれたレストランではなかなか本音も言えない。本音と建て前のうち、「建て前」で過ごしていると、マジでいろいろと価値観の軸がズレていく感覚に陥ってしまう。
この本は、後ろに行けば行くほど面白くなると感じた。
全部読み終わったあと、デカくなっている字だけ読み返すと、とてもいい復習になるのも嬉しかった。