こういう夜 いいよね

なぜか、買ったままそのままになっていた本。

うーん、普通すぎる感想だけど、面白かった。

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

ネタバレ

異母兄弟の同級生、高校3年生の甲田貴子と西脇融が、徹夜で歩く会を通して、距離を縮める、というお話。

いやー、いいところ、攻めてくるよなー。

自分はもちろん、全然イケてない、死ぬほど幼稚な高校生だったので、こうした、「なにか特別な力が働く夜」に、いいことが起きた、なんてことはなかった。

でも、なんとなく、この感じ。

この夜だけは、なんとなく不思議な力が漂っている、みたいな感覚は、高校生のころはあった。

このリアリティは、多くの人が共有できるけど、ふだんは完全に忘れているもの。

でも、恩田さんは、うまーく、この感覚を引き出してくれる。

とは言っても最初は、恩田さんの策略を読み切れず、「オレはこんなにモテなかったし、もう高校時代の女のコとの感覚とか、忘れたしー」などと、イマイチ、話にノリ切れない感じもあった。

ところが、289ページの言葉で、ええっ!と来る。

「だったら別に勘違いなんかしてないでしょ。西脇君は、貴子の異母きょうだいなんだもの」

えっ知ってるの?少なくとも、貴子の友人は。

という感じで、ギアを替えて。

そして、いろいろな仕込みと、まあ、いろいろな展開があって、412ページのシーンは大感動となる。

今、あたしは西脇融と並んで歩いている。二人で歩いている。二人で喋ってる。これはちょっと、凄いことなんですよ、皆さん。

いや、改めて振り返ると、杏奈とその弟の感じとか、ちょっと、こういうこと、あるかなー?とか、思わないでもない。

でも、なんというか、「その夜だけが持つ、特別な力」っていう一点で、この話は、とてもすばらしい。

そして、こういう夜はあり得るんだ、こういう不思議な時間はあるんだ、と思えることは、考えただけで、幸せになれる。

面白くて、すてきな小説だ。