学び 努力し 自分を磨け

またまた東野圭吾さんの探偵ガリレオシリーズを読む。

大学の研究室ではない湯川学が、またいい。

真夏の方程式 (文春文庫)

真夏の方程式 (文春文庫)

寂れた海辺の夏 少年の目線

今回は湯川学の研究室は出てこない。

伊豆のどこか(違うか?)らしき「瑠璃ヶ浦」という海沿いの寂れた街という設定だ。

この、寂れた街の夏・・という感じの描写。そして、時折出る少年目線が、話を飽きさせずに導く、うまい仕掛けになっているなあと感じた。

自分は、25年くらい前に友人グループとなぜか一泊旅行で行った伊豆の網代の民宿を思い出した。

海底資源の話、地元の若者たちの話など、過疎の街の暮らしのリアリティは、自分の20年以上前の北海道の街での生活を思い起こした。「こういう感じ、あるよなー」といちいち膝を打った。

少年との交流も楽しい。

少年とのロケット実験とスマホによる海中撮影、それによるスマホ故障。

しかもスマホ故障が話の展開に微妙に関わってくるところが、いちいち「うまいなー」と感じた。

湯川の金言 説得力が倍増

ガリレオシリーズ定番の湯川の金言もちりばめられている。

人生の格言のような言葉ばかりだ。

誠実さと、ゼロリスク幻想への覚悟。

「できないことはできないと正直にいうべき」

「地下資源を利用するには採鉱しかない。採鉱すれば生物に被害が出る。それは陸上でも海底でも同じこと」

「人間はそういうことを繰り返してきた。あとは選択の問題」

「君たちは完璧な環境保護を要求している。この世に完璧なものなどない。存在しないものを要求するのは難癖以外の何物でもない」

「科学者とは」の覚悟。

でもこういう覚悟は、本来、科学者だけに求められることではない。

青くさいけど、とても考えさせられた。

「君はこの宿に来るための地図を持っていただろう。地図のおかげで迷うことなくたどり着けたわけだ」

「人類(人)が正しい道を進むためには、この世界がどうなっているのかを教えてくれる詳しい地図が必要だ」

「ところが我々の持っている地図はまだまだ未完成でほとんど使い物にならない。だから21世紀になったというのに、人類(人)は相変わらず間違いをしでかす」

「戦争がなくならないのも、環境を破壊してしまうのも、欠陥だらけの地図しか持っていないからだ」

「その欠けた部分を解明するのが科学者の使命だ」

「科学者がまずいちばん最初に考えるべきなのは、どの道が人類(人)にとってより有益かというこだ」

少年に向けて、覚悟を問う言葉もいい。

「わかんないものはどうしようもない、などといっていては、いつか大きな過ちを犯すことになる」

学び、努力し、自分を磨く

少年との交流が軸に作られていくから、教えているようで、全体の謎を解く伏線にもなっていく。

こういう、各ブロックをうまく使って組み立てていく感じも、いい。

「(花火で)青い光を放っているのは銅で、緑はバリウムだ。赤はストロンチウムで、黄色はナトリウム。いずれも金属だ。ある種の金属や金属化合物は、燃える時にその物質特有の光を放つ。これを炎色反応と呼ぶ」

「濡れた紙は空気を遮断するという点では、乾いた紙よりはるかに優れている」

「物が燃えるには酸素が必要だ。酸素がなければ火は消える」

「フライパンの油に火がついた時は、濡らした布をかぶせて空気を遮断してやるといい」

そして最後の少年への言葉。

楽しく読んだ長編ミステリーが、とんでもなく大切な人生のヒントを伝える、すごく深い小説だったことを知る。

「どんな問題にも答えは必ずある」

「だけどそれをすぐに導き出せるとは限らない」

「答えを出すためには、自分自身の成長が求められている場合も少なくない」

「だから人間は学び、努力し、自分を磨かなきゃいけないんだ」

そうだ、自分も、学び、努力し、自分を磨こう!

とっても素直に、そう思えてしまうから、もう完全に、東野圭吾さんの術にはまっている。

刑事とフリーライターと成実の現実感は少し疑問

なので、余計といえば余計だが、ちょっと、ここは少し東野圭吾さんらしくないかなー?と思った点は下記。

  • 殺された元刑事・塚原正次さんはもっとカンのいい人ではないか?という点。ほぼすべて突き止めているのだから「現地の関係者のど真ん中に入っていっても、向こうも困るだろうし、いろいろ事情もあるだろうから、そっとしておこう」くらいの察する力は十分ありそう。ちょっと不用意に動いている人にも見える感じは、やや違和感があった。

  • 電器屋さん兼フリーライターの沢村元也さんの人物像。遺体運搬をやるほどの関わりをしている割には、なんというか、やや平板な人物に描かれていて、あまり納得感のある決着には思えなかった。もっと、街のゆくべき方向と現実の間で沢村さん自身の葛藤があって、それであそこまでのことを・・、という流れにもできたような感じもした。

  • 川畑成実さんのかたくなな姿勢。これも、「中学校時代の殺人事件の彼女なりの責任の取り方」という設定になっているのだが、ちょっと不自然というか、もっとふだんは普通になってしまうのではないかなー、と感じた。まあ、中学校時代にあんな衝撃的なことがあれば、こんなものかなとも思うが、彼女の中に、変わり者の部分と、全体的な常識的判断の普通さが同居しているので、ちょっとモヤモヤした。

ただ、気になるといっても、お話全体から見れば、小さな話。

もっと、学び、努力し、自分を磨こうという気持ちに・・、変わりはない!