不条理すぎてつらくなる

書評で興味を持ったので、文庫化のタイミングで購入。

私は、脳のクセで「世の中で起きることは、少なくとも基本的には、安定していて、論理的で、理屈に合う。理不尽なことは、そんなには起きない」と考えてしまっている。

そんなとらえ方が、現実には全然守られていない一例があからさまに出る。

短絡的で、無計画で、行き当たりばったりで、適当すぎる、殺人事件。

ホントにこれが当事者の手記なの?と思うほど、ざっくばらんに、犯罪の一部始終が書かれている。

まあ4人殺しの罪で、実際にこの一家のうちの両親、長男、次男が死刑判決になっているのだから、そんなに、大筋で違わないことが起きたのだろう。

「わずか2日間で、思いつきで、4人を殺す」なんて恐ろしいことが、ホントに起きた。

「こわいもの見たさ」という言葉があるが、確かに「こわいもの」すぎて、読むのがやめられなくなる。

被害者のことを思えば、こうして加害者の手記を、私のような無関係の人間が読むこと自体、どうなのか、という気にもなる。

ただ、読んでしまう。

あまりにも信じられない成り行きが衝撃的すぎて、読んでしまう。

そしていま、「いや、まあ、これは相当、どこか価値観や倫理観が完全に変わっちゃった、特別な家族だから。借金が大きくなりすぎて、どこかで完全に、普通の考え方ではなくなっただけ。例外中の例外」と考えて、これまでの自分の認識との整合性をとろうとしている。

いや、もちろん、ここまで無計画で残虐な殺人事件はそうそう起きるわけではないだろう。

でも、そうそう起きないことに、本当に巻き込まれてしまった被害者4人がいることも、また事実。

不条理すぎることがつらい。

これが世の中の普通の姿だったら、とても耐えられない感じ。

でも、当事者にとっては、何が普通とか、例外とか、関係ない。

現実に、信じられない事態に、強制的に直面させられてしまった。

とんでもなく重い事実を突きつけられて、つらい気持ちになる本。

ネット記事では、長男は大相撲の大島部屋で序の口で戦った元力士。

次男松ヶ根部屋で序二段まで上がって戦っていた元力士ということだ。

そのことも、大相撲ファンのひとりとして、なんだか悲しい。