「生命」とは? 「生きる」とは?
広島大学の生物学者・長沼毅さんの本。
「科学界のインディー・ジョーンズ」といわれるほど、深海、地底、砂漠、南極、北極など極限環境の生物調査の経験があるとのこと。
つい最近、暴力事件があったと報じられていたが、まあ、そういう部分もあるかたなのかもしれない。
以前、何かで推薦されていて購入して、途中でそのままになっていたので、改めて読んだ。
- 作者: 長沼毅
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/12/20
- メディア: 新書
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最初は少し面くらうというか、抽象的な話ならついていけないような、壮大な話が出る。
「生命」とは何か?
いや、そもそも「生きる」とは、どういうことか?
では「生き物」とは何か?
ただ、話が現実の生き物の話になると、途端にわかりやすくなる。
乾燥状態で17年生きるハエの幼虫
アフリカの体長5ミリほどのハエ、「ネムリユスリカ」の幼虫は、水たまりに生息するが、干上がっても、乾燥幼虫として生き残る。
17年後に吸水させたら元に戻った最長記録があるという。
なんというか、そんなハエの幼虫がいるとは・・。
どんな塩分濃度でも生きる菌
塩分濃度の変化に関わらず生きていける細菌「ハロモナス」。
1マイクロメートルの体だが、体内の塩分濃度を自在にコントロールできるため、北極海でも、南極大陸にもいる。
高濃度の塩分にも、真水にも、高温にも、低温にもへっちゃらで、食べ物がないところでは、従属栄養から独立栄養に切り替えて、自分で栄養を作り出す。
長沼さんは、人間を「生息可能な領域を狭く限定した方向に進化した生物」とする一方で、ハロモナスのことを「生息可能域を広げていく方向に進化した生物」とする。
どちらが「地球最強の生物」なのかわからなくなってくる、という指摘は考えさせられた。
「放射線」に強い菌、体にかかる「圧力」「重力」にムチャクチャ強い大腸菌など、こんな生き物もいるのか、という紹介も面白かった。
進化は「突然変異」で起きる
生物の進化は、遺伝子のランダムな「突然変異」と、周囲からのいわば「環境圧」ともいうべき環境の状況の変化への対応で起きる、とのこと。
不勉強で理解していなかった。
キリンのよくある目的論的な説明は間違いだという。知らなかった!
またカメの甲羅はもともと「あばら骨」で、「突然変異」で、腹側から背中側に回り込んだとのこと。
なんとなくカメを見て、攻撃されても守ることができるように甲羅をわざわざ作るように進化したのかなー?などと考えたりしていたが、そういうわけではないそうだ。
遺伝子は利己的ではなく「協調的」
リチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」という本が有名だが、実際には「協調性」のある遺伝子のほうが、より生き延びやすいという話もあった。
利他的行動、協調性のある個体のほうが、より子孫を残すことができたために「進化」として定着したとのこと。
「生命」とは?「生きる」とは?
これも自分は不勉強で知らなかった(覚えてなかった?)が、生物の系統の研究に没頭したというエルンスト・ヘッケルさんが遺した「生命の樹」も面白かった。
長沼さんが指摘する通り、はるか昔に途絶えたり、途中で死に絶えた系統が数多くある。
いろいろなことを考えさせられる。
すでに「人工生命」というか、2つの細菌のうち、ひとつのDNAを消して、そこにもうひとつの細菌のDNAを参考に作った「人工DNA」を入れたところ、この細胞が動き出した研究もあるという。
また「ヒーラ細胞」の話も恐ろしい。
「ヒーラ」とは、1951年に子宮頸がんで亡くなった女性の姓名からアルファベット2文字を取ったもの。
彼女から取り出され、培養されて、いまも生き続けている、がん細胞だ。
この細胞は60年以上「飼育」しているうちに遺伝子がどんどん突然変異を起こしているそうだ。
染色体が増えたものが現れ、「新生物」として提唱されているとのこと。
こんなことも、起きているのだなー。
前半の「極限環境の生物のビックリ生態」から、「生命」とは何か?いや、「生きる」とは何か?まで。
全部まとめて面倒をみる、すごい本。