宗教は人間の脳と相性がいい
何年も前に週刊文春の図書コーナーで紹介されていてすぐ買ったが、そのままになっていて、今になって読んだ。
- 作者: 篠田節子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/05/28
- メディア: 文庫
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元・都庁職員が生活に困り、相棒の男と宗教団体を立ち上げ、教祖になる。
教祖はゲームソフトの原作者を目指していたことがあり、チベット仏教などもかじっていたので、なんとなく、それらしく、教えを説いた。
最初は「悩みを抱える女性たちの話を聞く場」みたいな感じだったが、信用してくれた人が、自分の知り合いを紹介してくれたりして、徐々に拡大。
信者やセミナー参加者の中には企業のトップとして活躍する人などもいて、「常に決断を迫られ、重い責任を背負う人々の、何か超越的な物にすがりつかざるを得ない孤独な心」を思ったりする。
仏像、お香などの販売(「寄進」という名目)で収入が拡大していく。
自宅や土地を持て余し、寄進したいという人も出てくる。
上には上がいて、もっと古参の宗教ビジネス男から乗っ取られそうになる。
信者からカネを巻き上げている、反社会的団体だという糾弾記事が出る。
勢力は一気に衰え、残った少数の女性たちと共同生活へ。
火事などを起こし、追いつめられたグループは逃亡生活へ。
逃げる信者の兄が捕まえに来るが、グループで殺してしまう。
相棒も喘息をこじらせて死んでしまう。
警察に捕まり、懲役14年の判決を受ける。
・・という感じで、宗教団体の立ち上げから、絶頂、衰退から最後まで書かれている。
もちろん小説なので、全部つくり話なのだが、読んでいて「こんなにうまくいくわけない」みたいな感想はもたなかった。むしろ、「意外とこんな感じで始まってそのままやっている新興宗教とかありそう」と思ったぐらい。
脳科学者の池谷裕二さんの本にある通り、私たちは、脳のクセとして、「安定した、理屈の通った、理不尽ではない世の中」を望んでいる。だから、「世の中は、こうできている」「こう考えれば、すべて整理がつく」みたいな話が、脳の本能として好きなのだ。
そして、人は人が好きだから、「仲間とともに、真理に向かって歩む」という宗教団体の基本形も、心地よい。古今東西、宗教が発達するのは、こうした人間の性質によるものではないか。
自分にも、新興宗教団体の建物の中に入ったり、街で新興宗教の勧誘を受けて話を聞いた経験が、ごくわずかながらある。
建物の中の「怪しさ」「秩序や規律のなさ」はつっこみどころが満載だった。教義は、聞いていて、素朴な疑問がいくつも浮かび、しかも首尾一貫しているわけでもないものだった。
信者さんたちの中には、「そうですよね、あなたもそう感じますよね」といった感じで、そうした弱い部分の自覚ができている人もいたくらいだ。ただ、そこの場にいること、そこで群れていること自体が楽しいので、怪しさや、疑問は、気にならずにいる、という感じだった。
以前、「マインドコントロール」という言葉がとても注目された。「コントロール」というと、教祖が一方的に言葉巧みにたぶらかすようなニュアンスだが、実際は、むしろ信者側の「コントロールされるくらい、何かはっきりしたものを指し示してほしい」という思いもかなり大きいものだと想像する。それくらい、宗教的なことは、人間が好きなことなのだと思う。
なので、この小説のストーリーも、いかにもありそうな話だなーと思いながら、読んだ。
巻末に参考文献も記されていた。
確かに、税金対策や、宗教法人の設立の難しさ、企業トップのカルトへの傾倒など、ディテールの詳しさも、この小説の脇を固めている。
宗教は、人間の脳のクセに、とても相性がいい。
・・そんな気持ちで、こわーい思いに何度もなる小説だった。