「やるべきこと」の違和感

書店で平積みになっていて、最初は「まあ、いいか、読まなくて」とも思ったが、後日、思い直して、購入して読んだ。

2軍戦といえば、自分は川崎市読売ジャイアンツ球場に横浜戦を1回だけ見に行ったことがある。お客さんは少ないが、2軍選手の追っかけ女子がたくさんいて、試合も結構面白かった。

ただ、よく考えると、確かに、プロ野球2軍、というか、プロ野球選手の全体像って、ほとんど何も知らない。

だから、この本の帯の情報は、そうなのかーと思いながら、読んだ。

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  • 各球団の選手総数は「70人」。

  • 1軍「28人」、2軍「42人」だから、2軍選手の方が数は多い。

  • 12球団あるからプロ野球選手総数は「最大840人」。つまり「日本で最も野球のうまい840人」ということになる。

  • その840人のうち、「110人から115人くらい」はシーズンオフに入れ替わる。ドラフト等で入ってきた数だけ、戦力外通告が出るから。(年末には強制的に13%くらいクビになる世界だから厳しい。毎年「プロ野球戦力外通告を受けた男たち」が作られるわけだ)

2016年からオリックス・バファローズで2軍監督を務める、著者の田口壮さんはサービス精神が旺盛。

そもそも二軍の使命とは何かから、日米の違い、観戦ガイド、二軍監督の日常まで、きっちり書かれている。

再三「ヨメ」の話が盛り込まれ、変わったこだわりや失敗談もあり、面白く読むことができた。

田口さんが2軍選手に常々言っているのが、プロ野球人生におけるチャンスは、3年間で9回くらいしかない」だという。

このチャンスは、だいたい入団から3年ほどの間に降りてくるもの。それをつかむことができるのは、1年に3回あるかないか。  

「年に3回しか降ってこないチャンスをいかにものにできるか」が、プロ選手としての勝負どころだという。

まあ、改めて、1軍の華々しい場所が、いかに特別中の特別かがよくわかる。

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ただ、今回読んでいて、少し気になったことがあった。それは田口さんが(書いていないだけで、本当は違うのかもしれないが)「2軍監督」の仕事にあまりにも専念している(ように見える)こと。

個々の選手への接し方、育て方、コーチとの接し方、2軍チーム全体の作り方などばかりで、田口さんが、それらを通じて「究極的には」何を目指しているのか、なんとなく曖昧に感じられてしまった。

田口さんたちが、究極的に目指すものは、普通に考えれば「1軍チームの優勝」のはずだ。そしてオリックス・バファローズはもう20年間リーグ優勝がなく、2位が2回だけ。下位低迷がほぼ定位置になっている。つまり、いま田口さんたちは、相当に危機的状況なのではないだろうか。

もちろんチーム予算や、特殊な事情、オーナーやGMの問題もあるだろうし、外からはうかがいしれないことも多数あるだろう。

ただ、なんとなく、田口さんの本を読んでいると、「いや、1軍のことは一義的に1軍監督マターだから、2軍監督の関わりは、どうしても限定的」という感じで、1軍チームの不振をいちばんの問題に捉えていない感じに見えてしまった。(いや、本当はGMや一軍監督とガンガン議論しているけど書いてないだけかもしれないけど)

なぜそんなことが気になるかと言えば、自分のまわりにも、「会社全体の状況より、自分の部署の最適化、管理に集中」みたいな、タコツボ管理職がたくさんいるから。

同業他社と戦っているのに、部署の若手社員の育成やルーティン業務だけに専念して、相手に勝つ新たなアイデア、試行錯誤などを考慮する発想がない。会社としていちばん大事なことは、他社に勝つことなのに「いや、そういう大きなことを考えるのはオレの仕事じゃない」などと、堂々と開き直って言ったりする。

業界1位、シェア1位になるには、いま、どんな改革・修正、選択と集中、会社の仕組み見直し、ヒト・モノ・カネの再配分が必要なのか。

仮にも管理職の一員なら、当事者として、そうしたことをいつも考えていて、当然ではないだろうか。

20年間、業界下位にずっと低迷している会社の製造部長が、「いやー、ウチの現場、若手が伸びず、毎日、大変ですわ。苦戦してます」みたいなことだけを言っていたら、普通に考えたら、あまり積極的には共感できないと思う。むしろ、危機感、緊張感が足りないぐらいに思われてしまいそうだ。

2軍監督の悪戦苦闘はそれなりに面白いけど、田口さん、それだけやっててもダメでしょ、「やるべきこと」はそれだけではないでしょ、と、つい、余計なお世話を言いたくなってしまう感じ。田口さんほどの大スター監督に。

何度も書いているように、田口さんは本当は「一軍チームの仕組み、意識、ルール等の大改革提案」を、いろいろやっているのかもしれないが、この本だけを読むと、2軍監督の仕事に専念しているようにも、見えてしまった。

全体的には、とても楽しい、面白い本だが、なんとなく「2軍監督専念感」だけは、日頃の問題意識と重なって、ちょっと気になってしまった。