概念係と表現係をひとりでやれ
何年か前の話だが、JR九州の九州新幹線開通のCMの素晴らしさに衝撃を受けた。 そのCMのクリエイティブ・ディレクター、古川裕也(ふるかわ・ゆうや)さんの本。
- 作者: 古川裕也
- 出版社/メーカー: 宣伝会議
- 発売日: 2015/09/05
- メディア: 単行本
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まあ、簡単に言うと、広告(というか、クライアントからの依頼)の進行全体を管理するのが、クリエイティブ・ディレクターということか。
古川さんが「何をする仕事なのか」で下記のように書いている。
課題➡アイデア➡エグゼキューション(実行)
この方程式のすべてを考え、決定し、実行するのが、クリエイティブ・ディレクションという仕事である。
あるいは、こう。
茫洋(ぼうよう)とした課題を見つめることから始め、それを解決するアイデアを考え、気の遠くなるようなプロセスを経て、何らかをアウトプットする。
まあ確かに、古川さんが言うように、すべての仕事は、ある意味で、上にあるような方程式で成り立っている、とは思う。
だから、この本のタイトル通り「すべての仕事はクリエイティブ・ディレクションである。」なのだけど、まあ、頭ではわかっても、実際に、いま自分が職場やプライベートで抱えている問題にこの方程式を応用して成功させるのは、古川さんが言うほどは簡単ではないよなー、とも感じてしまう。
ただ、第1章には、方法論が、1から、4まで、ものすごく丁寧に書いてある。ここを繰り返し読むことで、実際の場面で頑張ってみようという気に、少し、なっていく。そういう本だと思う。
1.ミッション(任務・使命)の発見
古川さんはまず仕事の前提には、何らかの不満、欲望があるという。例として、こんな感じが出る。
自分の職場にも、ある。
不満、欲望、なんだかわからないモヤモヤ、これは無数にある。
頻発すべき問いは、これだ。「その問題が、本当の問題なのか?」。
漠たる不満を、確たる不満に昇格させること。
「本当は、このブランドをこういう状態にしたい」「みんなからこう思われたい」を明確化・言語化して、具体的な目的にまで昇華させること。
よい結果を導き出しやすい「明確で正しい困り方」に凝縮させること。
アイデアを考えるべき範囲を限定して、考えやすい状態にすること。
・・古川さんは、これがクリエイティブ・ディレクションの最初の仕事だとする。うーん、整理と議論に、すごく時間がかかりそう。古川さんから、ひとつのヒントが提示される。
ミッション(任務・使命)の発見は、課題からひとつ次元を上げて行うべきだ。
「ミッションに張る」のだ。
「これが来そう」「これが確実に儲かりそう」「この辺が空いている」ではなく、世界にとって重要なミッションをいちばんのコアに置く。
ミッションが自分たちの内部にとどまっている限り、世の中から大きな支持を、そして利益を得ることはできない。
課題を解決した時に得る果実を受け取るのは、自分たちだけではなく、もっと多くの人たちだと考えるということでもある。
もうひとつ、クリエイティブ・ディレクターがよく口にする、共通のセリフがあるそうだ。
「そもそも、これって、どういうことだっけ」
「この問題って、そもそも問題なんだっけ」
「そもそも、いちばん大事なことって、なんだっけ」
「1個だけやるとしたら、そもそも、何をやればいいんだっけ」
「そもそも、これって、やったほうがいいんだっけ」
「そもそも」が連発されている。
常に根源まで遡るのが、クリエイティブ・ディレクターの最初の仕事である。
10年くらい前、職場で何か意見を話す時「そもそも、これって」と必ず最初につける人がいた。その意見は、別に、根源に遡るわけでもなんでもない、単なる個人的な意見がほとんどなのに、毎回つけるので、なんとなく嫌だなーとよく思っていた。だから自分は「そもそも」と言う人は、今でもちょっと嫌いだ。
ただ・・
「課題や不満から、次元を一段上げる」
「いつも根源まで遡る」
・・の2点は、確かにヒントになる言葉だなーと思った。
そして、方法論の2が来る
2.コア・アイデアの確定
「捨てる」のはクリエイティブ・ディレクターの重要な仕事のひとつ。
ワン・フレーズに凝縮する。
「今回何をやるか」を確定する。
「ああ、おおよそ、そういうことをやるのね」ということだけわかればいい。
ここで注意も出る。
「全方位で考えよう」「君たち好きなように自由に考えていいよ」「あらゆる可能性を残しておこう」とか言い出す人物が時折登場する。
そういう人の言うことを聞いてはいけない。
そう、これは思い当たる。
言われた時は正しい気がするけど、すごく拡散して、実現できなくなってしまう感じ。些細な、微妙なことなんだな。
ただ、古川さんでも「絶対いける」と思えるアイデアは必ずわかるわけではないそうだ。しかし・・。
「これは絶対ない」は、ほぼ100%の確率でわかる。
アイデアは、1か所でもダメなところがあれば、即、0点だからである。
では、「いける」は、どう決断するのか。
いいアイデアは、論証できない。
非論理的、直観的である。
ただし、非論理、直観を信用するためには、その時点まで、論理的に突き詰めておかなくてはならない。
それではじめて、直観が活躍する準備ができる。
ここまでの「1」と「2」を、古川さんは「概念係」と呼ぶ。
そして、方法論の3は。
3.ゴールイメージの設定
ここで始めて、受け手を意識する。
みんなに「自分に関係ある」と感じてもらうことが重要だという。
アイデアの意味を超えて「こんな感じ」を設計し、共感を形成し、ヒトを動かす。
肉体的、直感的に、受容されなければ、共感は形成できない。
それは明らかに非論理的出来事だ。
「理由はともかく、こっちのほうがいい」「だってこっちのほうが好きなんだもん」という、「表現」の力でなくては御せない、とても過酷な場所。
・・うーん、話としてはわかるが、ちょっと実感としては難しいな。
そして、最後の方法論4。
4.アウトプットのクオリティ管理
ここで、こんな言葉が出る。
幸いなことに「表現」の点数を上げる原理は存在する。
「びっくりさせる力」と「納得させる力」である。
「びっくりsurprise」と「はたひざ(はたと、ひざを打つ)make sense 」
このふたつが含まれていない傑作は、歴史上存在しない。
このふたつが含まれていれば、ほぼ100%の確率で傑作。
驚きと同時に、「意味」を伝えて、はたと膝を打たせなくてはならない。
「表現」は、要は、言いたいことから相当程度、意外な方が、破壊力を持ちやすい。
ただ、必ず最後「はたひざ」がなければならない。
すごく図式的に言うと、「ああ、こういうことを伝えたいために、これほどの表現が必要だったのか」と、構造的に受容されるべきだ。
右脳+左脳、カラダ・ココロ+アタマ、両方を動かさなければならない。
「はたひざ」とは、目的芸術である限り、必ず持たなくてはならない最終的説得力のこと。
古川さんは、「クリエイティブ・ディレクションの仕事には、最初と最後の2回、『直観的判断』が要求される」と結論する。
「おおよそこういうことをやろう」と「だいたいこんな感じに最後はしていく」という判断は、そうは言っても、だいぶ「えいや!」、賭け事。
みんなの意見も聞いた。ロジカルに考え抜いた。傑作にならざるを得ないように、ほぼ追い込んだ。けれど、決める時は手ぶら。「直観」で決めなくてはならない。
そのギャンブル量を極小化しておくのが、クリエイティブ・ディレクションという技術。
なるほどー。
つまり、クリエイティブ・ディレクターとは「概念係」と「表現係」ということになる。
1. ミッション(任務・使命)を発見し
2. コア・アイデアを確定し
3. ゴールイメージを設定し
4. アウトプットの品質を管理する
・・の、4工程を必ず意識する。
実際、4つの工程が常に直線的に進むわけではない。
途中で止まったり、うまく進まなくて後戻りしてそこからやり直したり、進んでいるうちに確信が持てなくなったり。
稀に強力なアウトプットが先に立ち現れることもないわけではない。
・・確かに、実際には、いろいろなパターンがあるだろうし、当たり前だが、失敗に終わることもあるだろう。
でも、こういう、はっきりした方法論で、クリエイティブな仕事の考え方・進め方を整理してもらえることは、とても参考になった。
もちろん、全然、簡単なことではないけれど・・。
ただ、これを頭のどこかで意識しているか、いないか、だけでも・・、
ちょっとは違う、と、いいな。