観察せよ 考え続けよ
ロボット工学者の石黒浩さん。テレビでとても参考になる意見を話していて気になっていたので、まずはこの本から読んでみた。
- 作者: 石黒浩
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/12/18
- メディア: 単行本
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池谷裕二さんの脳の本とどこかで通底する考え方が多いように感じた。
人間は不足情報をプラスの方向に補完する
脳の、安定を好むクセからすると、当然のことだが、人は簡略化されたテレノイドの不足している部分をプラスの方向で補うという。
人間は、自分にとって足りない情報は、プラスの方向に補完する傾向にある。
見知らぬ異性から、感じのいい声で電話がかかってきたら、それが不細工な悪人からかかってきたとは思わない。
顔を知らないラジオパーソナリティや声優の声を聞けば、だいたい美人かハンサムに思える。
テレノイドを使っている人たちは、テレノイドのニュートラルな外見から、いわば自分の都合のいいように、自分が好きな人・話したい人を想像したり、優しい表情を思い出して語りかける。
人に想像される余地を作ることが、人間らしいアンドロイドの要素。
「心」とは観察する側の問題
心が本当にあるかどうかなど、誰にも確かめようがない。
我々は「心があると『感じる』」にすぎない。
心とは、観察する側の問題である。
虫でもいい。動きが相当以上に複雑なものに対しては、相手のことを、一からすべては理解しきれない。
「こいつは、私の知らないところで勝手に独立して考え、動いているのだろう」という想像が働く。
その浮かんできた想像に名前をつけずにはいられなくなる。
それを「心」と呼んでいる。
これも、脳は安定を好むから、心という秩序めいたものを求める、とも解釈できる。
脳は、会話した「気」になる
会話型ロボットの観察での文章も興味深いものだった。
(話し)相手をするロボットが複数体いる場合、3体のうち2体以上がお互いに対話していれば、そこに参加している人間は、自分が直接話していなくても、対話しているような感覚になってしまう。
音声認識なしで対話が成立する。
人間とロボットの間に必要なのは「会話している感」なのだ。
これも、「安心したい脳」らしい、自分を不安定にしたくない動きともいえる。
人間の身体はロボットで拡張する
遠隔操作型ロボットに、人間は感覚を同期させることができる。
以前から、義手をつけている人が腕をナイフで刺されると痛みを感じる現象は知られていた。
(映画などで)残酷なシーンを見ると、我々はどうしても眉をしかめてしまう。
痛そうにしている場面を見ると、痛々しく感じる。
それに近い感覚が、アンドロイドを使っていると、より強烈に、きわめて生々しく発生する。
人間の身体はロボットを通し、拡張していくのだ。
何をしていても人間について学べる
生きていく上で「つまらない」ことなどほとんどない。
どんな活動をしていても、何をしていても、人間について学べるはず。
多くの人は、学ぶ力、学ぶ気がないから「これはつまらない」「これは面白い」と選別しているだけ。
他者のなかに知らない何かがあり、少しは自分でも興味があるなら、近づいて取り込めばいい。
僕は死ぬまで考え続ける。
みなさんもそうであってほしい。
考え続けるかぎり、人間は、他の動物とも、ロボットとも、違う存在でいられるはずだ。
石黒浩さんは、きっと、観察し続けて、考え続けている人なのだと感じた。
観察せよ。
考え続けよ。